1000年前の忘れ物

瀬戸内海で漁をする漁師さんの網には、変わった形の焼物がかかることがあります。

焼物は高さ10cmで小型のハンドベルのような形をしています。

飯蛸壺_01

内側は空洞になっています。

飯蛸壺_02

このハンドベルのような焼物、およそ1,000年前のものです。

海の中で何に使っていたのでしょうか?

 

小豆島では最近まで似たような道具を使っていました。

実際の使い方を見てみましょう。

まず長いロープに、数十~百数十個の焼物(またそれに似た空き缶や貝殻)を結び付けて海に沈めます。

飯蛸壺漁_01

飯蛸壺漁_02

数日後、ロープを引き揚げます。

飯蛸壺漁_03

するとロープに結ばれている焼物や空き缶、貝殻の中から何かが・・・・・・・。

飯蛸壺漁_04

飯蛸壺漁_05

イイダコです!

飯蛸壺漁_06

1000年前の焼物はイイダコを獲るための道具——蛸壺だったのです。

古代の人が海に沈めたまま忘れてしまったのでしょう。

 

イイダコは体長10~20cm程度の小さなタコです。

春先のメスの胴部(通常、「アタマ」と呼ばれる部分)には、白くて小さな卵がびっしりと詰まっています。

この卵をご飯に見立てて「飯蛸」と呼ぶようになったとも言われています。

香川では、イイダコを煮付けやわけぎ和えなどにして食べます。

飯蛸の煮付け

(写真の煮付けは、香川県坂出市の居酒屋明神さんにつくっていただきました)

 

イイダコは狭いところに入り込む習性を持っています。

なので、海に沈めた蛸壺にイイダコが入り、それを漁師さんが引き揚げるというわけです。

飯蛸壺漁_07

1000年前も同じ方法でイイダコを獲っていました。

古代の人もイイダコの習性を熟知し、それに合わせた道具を使って漁を行なっていたのです。

 

乗松真也