小豆島で尋常ではない塩作りをしている蒲さんが、十二月いっぱいで
作業場所を移転するというので、その前に見学に行くことにしました。
人里離れた小さな半島の果て、山ぞいから急激に海辺へ降りていく道の入口に門があり、
波花堂と書かれた表札がついています。普段は頑丈な鎖と錠前で閉ざされています。
門のあたりはまだ綺麗に整備されていますが、先に進むにつれて起伏の激しさが尋常ではなくなってきます。
「道がズタボロですね」と言うと、
「大雨が降ると鉄砲水が出て、道が崩壊するのよ。これでも土で均して修復した後なんだけどね」
と蒲さんの奥さんは言います。蒲さん本人は作業が忙しくて相手してくれません。
「海岸にすさまじい岩がありますね」
「あれも大雨の時に、崖の方から流れて転がってきたのよ」
ちょっとした秘境です。ここに作業所があるのですが、その手前に大きな建物があります。
かつて自給自足の生活を目指して暮らしていた人たちが、自分たちで作り上げた建物です。
東北の震災の際には、自主避難者を数多く受け入れた施設でもあります。
人としての志の高さも尋常ではありません。
その窓から見える景色です。目の前には海が広がります。
この海からポンプで直に水を汲み上げるのです。
冬の海にも入ってポンプを操作したりするというから、尋常ではありません。
汲み上げた水は、天日にあてて濃度を高めます。
その後、作業所の鉄釜で長時間煮つめて塩の結晶を取り出すのです。
冬の海も地獄ですが、夏の作業場もまた地獄です。
それを樽の中にしばらく寝かせて、塩とにがりを分離させます。
たいへん手間と時間のかかる作業です。
御塩と書いてごえんと読む。
ご縁があってどこかで見かけたら、手にとってみてください。
鉄釜から出た鉄分やらミネラルやら含んだ、豊かな味わいのような気がします。気のせいかもしれませんが。
個人的には、尋常ではなくおいしいと思っています。