小豆島に住んでいるのだから、小豆島の作品くらい見ておかねばなるまい。
そう思って三都半島に足を伸ばし、調べもせずに行き当たりばったりで、
いくつかの作品を見てきました。どれもそれぞれよかった…
いや、中には記憶から抹消したいようなものもあったような気もしますが、
すでに抹消済みなので覚えていません。
その数日後、骨太の丸顔の男性がうちの店(うみねこかしや)に現れて、
「イノキです」と名乗りました。そう聞こえました。
実際には「ゆのきです」と言っていました。
漢字で書くと「柚木です」となります。
ゆのきという音には聞き覚えがありませんでしたが、
柚木という名はどこかで見た覚えがありました。
柚木恵介。三都半島で何やら活動している男のはず。
なぜうちの店に来たかというと、やはり三都半島で作品作りをしていた
臼井君という男に紹介されて来たといいます。
この臼井君という男は、かつて僕と共にあるとてつもない冒険を経験しました。
(その冒険については、いつか本誌かブログで語るかもしれませんが、
語れないかもしれません。)
その結果、何も失っていない僕は彼に戦友としての親しみを抱くに至ったのですが、
大きなものを失った彼は、僕に戦敵としての憎しみを抱くに至ったのではないか?と
僕は危惧していました。
しかし、こうして友人を紹介してくれたところを見ると、
さほど僕を憎んではいないのでしょう。
柚木氏は多弁ではありませんが朗らかで、
内に秘めた熱気を感じさせるが穏やかな人でした。
「ちょうど数日前に三都半島に行きました」
と僕が言うと、柚木氏の顔がぱっと輝きました。
「見ていただけましたか。僕の作品を。」
どんな作品でしたか、と聞いてみると、木彫りの群島だといいます。
「どうも見た覚えがない」と言うと、彼の顔がみるみるうちに曇りました。
「ちょっと奥まった場所に展示してあるので…」と場所を教えてくれたので、
僕は再び三都半島を訪れました。
吉野の海へと続く細い道の両側に、かつて瓦置き場として使われていた建物が二つあり、
どちらにも見事な作品が展示されています。
前回は、その二つだけを見て帰ってしまったのですが、
よく見ると、右側の建物の脇に道があり、もう一つ古い納屋のようなものがありました。
なるほど、気を付けないと見逃しがちです。
前口上がだいぶ長くなりましたが、ここからが本題にして結論になります。
とても良かったんです。