「せとうち暮らし」をスライドに映していたときに、その揺れは始まりました。
2011年3月11日14時46分。私は、東京都千代田区のあるビルの一室で、
「せとうち暮らし」について述べ、その活動をもとにした今後の展開を
プレゼテーションしている最中でした。
その瞬間、私をふくめ誰もがこのような甚大な被害になるとは
想像もしていませんでした。
想像をはるかに超えた現実は、否応なしに私たちに価値観の変容を迫ります。
私は、その一つの具象が、「せとうち暮らし」だと思っています。
先日立ち上がったばかりのヨットとクルーザーを運用して瀬戸内海と
その島々の魅力を伝える「風向」という会社のパンフレットに、
私は次のように書きました。
瀬戸内海を漂いながら、耳を澄まし、風と戯れてみてください。
そこに点在する島々に暮らす人の息づかいや伝統の足音までも聞こえてきそうです。
ここがあなたにとって、もう一つのふるさとになりますよう。
おかえりなさい、心のふるさとへ。
抗うでもなく、無関心を装うでもなく、
海と対話を始めるという姿勢が、いま私たちには必要なのだと思います。
先日の新聞に、地震と津波で脱線したJR線のドキュメントがあり、
ある乗客のコメントが載っていました。
「線路の復旧の目処は見えないし、そもそも、
この場所に線路を戻すのが良いのかどうかも分からない」と。
人が自然から退くべきではないか、という迷いの心を見た気がします。
私たちは、高度成長を経験し、バブルを経験し、
その後の「失われた10年」を経てもなお拝金主義であり、
時代遅れな経済指標を信じてやってきたのかもしれません。
瀬戸内海に漂い、そこでの暮らしを体験してみることで、
希望が見えてくるような気がします。
希望はいつも、あたらしい価値を握りしめています。
(人見 訓嘉)