瀬戸内海で漁をする漁師さんの網には、変わった形の焼物がかかることがあります。
焼物は高さ10cmで小型のハンドベルのような形をしています。
内側は空洞になっています。
このハンドベルのような焼物、およそ1,000年前のものです。
海の中で何に使っていたのでしょうか?
小豆島では最近まで似たような道具を使っていました。
実際の使い方を見てみましょう。
まず長いロープに、数十~百数十個の焼物(またそれに似た空き缶や貝殻)を結び付けて海に沈めます。
数日後、ロープを引き揚げます。
するとロープに結ばれている焼物や空き缶、貝殻の中から何かが・・・・・・・。
イイダコです!
1000年前の焼物はイイダコを獲るための道具——蛸壺だったのです。
古代の人が海に沈めたまま忘れてしまったのでしょう。
イイダコは体長10~20cm程度の小さなタコです。
春先のメスの胴部(通常、「アタマ」と呼ばれる部分)には、白くて小さな卵がびっしりと詰まっています。
この卵をご飯に見立てて「飯蛸」と呼ぶようになったとも言われています。
香川では、イイダコを煮付けやわけぎ和えなどにして食べます。
(写真の煮付けは、香川県坂出市の居酒屋明神さんにつくっていただきました)
イイダコは狭いところに入り込む習性を持っています。
なので、海に沈めた蛸壺にイイダコが入り、それを漁師さんが引き揚げるというわけです。
1000年前も同じ方法でイイダコを獲っていました。
古代の人もイイダコの習性を熟知し、それに合わせた道具を使って漁を行なっていたのです。
乗松真也