今回から始まった「自転車があるじゃないか」、
豊島行の取材に使ったのは、20インチ径の折りたたみ自転車です。
世界で最も名の通った折り畳み自転車ブランド「ダホン」の
「ボードウォーク」。
ボードウォークは最も安い機種ではありますが、決して侮ってはいけません。
折り畳み機構が優れていて、何しろデザインが可愛い。
見た目より頑丈で、走りの性能もそこそこいい。優れ物です。
しかし、企画を持ち込んだ時点での僕の思いつきは、
「ロードレーサー(レース用自転車)で、小豆島の各地の名所を紹介する」
というものでした。その企画書を書いて、せとうち暮らしの編集長の
度肝を抜いてやろうと目論んでいました。
まずは、家のすぐ裏手にある碁石山を登ります。
「自転車で碁石山に登りきるだけでも、インパクトは十分なはず。
だが、それではまだ完璧ではない。興奮を誘う、面白おかしい文章を添えて、
『即採用です。そのまま雑誌に載せます』
と言われるようなものに仕上げてやる…」
野心を胸に抱いて碁石山を登りきった僕は、
不動明王と共に自転車の写真を撮りました。
「それにしても、なんという弱そうな不動明王なんだ…
不動明王といえば、人間の煩悩を焼き尽くすという最強の明王。
それがこんなに弱そうでは、煩悩三昧の現世の行く末が心配だ…」
その瞬間、閃きが走りました。寒霞渓にある石門洞の不動明王。
あれはとてつもなく巨大で剛毅、まさに容貌魁偉。
「こちらの不動明王は弱そうだが、あちらの不動明王はめっぽう強そうなので、
現世はさほど問題ない、とまとめれば収まりがいい…この企画はいける…」
こうして書き上げたものを持ち込むと、さっと目を通した編集長は、
「面白いですね…確かにいけますよこれは…」と、全面的に受け入れ態勢を
整えた笑顔になりました。「ただ、ほんの少し微調整の提案があるんです。
小豆島以外の小さい島にしませんか?いろいろな島を紹介したいと
考えているんです。」
「なるほど。」
「それから、ロードレーサーもいいんですが、
できれば一般の人がついてきやすい小型の自転車の方が…」
「確かに。」
「あ、あと、船に無料で持ち込める自転車だといいですね…
折り畳み自転車の旅なんかどうでしょう。」
「妥当なところです。」
というわけで、ほんの少し軌道修正が行われましたが、
連載は開始されました。だいたいにおいて当初の予定通りです。